Myu Audio日記

オーディオ関連のブログです。

ビリー・ホリデイ「奇妙な果実」

Southern trees bear a strange fruit     南部の木々に 奇妙な実がなる
Blood on the leaves and blood at the root 葉っぱには血が 根にも赤い血が滴れる

 

ビリー・ホリデイが歌う「奇妙な果実」の歌詞の一部です。この曲の録音は1939年、リンチにあって虐殺され、木に吊りさげられた黒人の死体が腐敗して崩れていく情景が描写されています。それぞれの国にはそれぞれの歴史的背景があることは理解したうえで、この曲を聴くとおぞましい事実にひとりの人間として心が痛みます。

 

 

 

先日、録画しておいたある番組でビリー・ホリデイが歌う「奇妙な果実」(原題:Strange Fruit)を数十年ぶりに聴き、歌の力に心が揺さぶられました。ビリー・ホリデイはこの人種差別を告発する歌を、歌詞の持つ力を信じ意図的に感情を抑え、隣に座っている人に優しく話しているように歌っています。そこには、歌のプロが技巧を抑えた表現だけに、本物だけが持つ歌(音楽)の力を感じます。

 

数十年ぶりに「奇妙な果実」のレコードに針を落としました。85年前の録音ですので、帯域は狭いです。しかし、下方リニアリティが高いのにはびっくりしました。当時のマイナーレーベルの録音機材では、マスタリング時に余計なことをすることもままならないはずですので、かなり素の感じがして、これがとても良いのです。下方リニアリティの質感はハイレゾ音源並みのクオリティに私には感じられます。

 

その要因は二つ思い当たります。一つ目は、オーディオテクニカのカートリッジ(AT-ART9XI)とエルサウンドのフォノイコライザ(EMC-2)を導入したことによって我が家のアナログ再生の質が上がったこと、二つ目はScan-Speakのミッド( D8404/552000 )が本領を発揮しています。このユニットの弱音の表現力には、天下のScan-Sepakが自信作と言っているだけのことはあると私は思っています。(注)帯域の広さ重視の方には、他のモデルをお勧めします。

 



最近の私はハイレゾ音源を中心に立体的なサウンドステージ(空間表現)の再生に軸足を置いていましたが、1939年に録音された「奇妙な果実」を聴いて、モノラル録音で帯域が狭いにかかわらず、その曲が持つ音力に魅了され、自分のオーディオの原点を思い出したしだいです。

自分が生を受ける前の音楽がバタフライエフェクトとなり世論および政治を動かし、時を超えてそれが味わえます。記憶に残る記録、これがオーディオの本質かもしれません。